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首都東京の昆虫たち
よく「東京に何種類の昆虫がいるの」「野生蛍はどこにいるの」「クワガタのいる森はどこ」などと聞かれる。
その答えは「わかりません」。なぜわからないのか?
自然破壊、大気汚染、地球温暖化と地球は大きな病をかかえている。この病状を知る指標として昆虫の生息状況調査がある。
昆虫も棲めない環境は人間も住めないと言えよう。
にもかかわらず、環境指標として重要な昆虫各群の生息状況調査は行政も研究者も手つかずの地域が多く、現状は調査より開発が先行し、
地図上探した虫の楽園も訪ねてみたら団地化、宅地化、ゴミの山に変身し、自然との共生・調和を志向した姿は皆無に近い。
どこに行けば何がいる。国蝶オオムラサキの分布、カブトムシの分布と東京本土部の昆虫分布も、趣味家、
コレクターの多いチョウ、トンボ、カミキリムシ等の虫たちはわかっているが、他の分野はわかっていない。
東京の生息昆虫を断片的でなく総合調査を実施したのは千代田区(皇居)、港区、大田区、江東区、杉並区、
板橋区、北区、武蔵野市、府中市、武蔵村山市(狭山)、青梅市等の自治体で、それぞれ調査報告書を刊行している。
東京の広域総合調査は古く1938年、加藤正世による報文以降はない。関東では埼玉県、神奈川県、栃木県、千葉県が総合調査を実施している。
はたして首都東京はどうであろうか?
2004年秋、東京大学総合研究博物館で「東京の昆虫たち・その衰亡の歴史をたどる展」を開催した。
本展は終了後も各地の要望に応え、翌年巡回展を実施し、東大展も含め延べ約10万人の来館者を得た。
展示の構成は、筆者が東大に寄贈した約10万点の標本の中から東京の昆虫相変遷史を意味づける標本を選出した。
古くは東大名誉教授、元助手の戦前標本、筆者の小学校5年生時代の標本(1942)を振り出しに、
現在までの標本を10年ごとに区分し選出、「半世紀の東京昆虫相・昔と今」を語る標本と
「環境による生息種」をメイン展示とした。「昔と今」の区分は高槻成紀助教授により、
「戦前から1950年まで/戦後の混乱」「復興の始まり/1950年代」「高度経済成長/1960年代」
「繁栄と環境問題/1970年代」「都市化の限界/1980年代」「新たな変化/1990年代」に大別し、その時代背景とともに標本を展示した。
よく話の中に「戦前は緑豊かで虫も多かった」とか「戦前はイナゴをとって食べたよ」
と戦前は昆虫がたくさんいたような話がある。今回の展示で10年スパンで標本を並べてみると、
東京の昆虫が壊滅状態になったのは戦災ではなく、東京オリンピックにつながる高度成長期・開発時代であることが定性的・定量的に判明した。
時代を比較する区切りに戦前・戦後という表現がよく使われるが、野生動植物を比較すると、
少なくとも昆虫は戦前・戦後にあらず、戦後の混乱期には多くの虫が生息し、昆虫の世界は安定期であった。
東京オリンピック前後の利益優先の乱開発で、昆虫の棲み家は激減期となった。現在は微々な進行とはいえ、復元期にあると言えよう。
昆虫界の栄枯盛衰を分布図に
東京の昆虫、特に都市部の昆虫は過去3回絶滅状態に追いやられた。その1は大正12年の関東大震災、
その2は昭和20年の東京大空襲、その3は昭和28年ごろの帰化害虫アメリカシロヒトリ防除による
大量の無差別農薬散布があるが、郊外の生息環境は被害を免れていた。郊外の昆虫は農地・水田・草地の宅地化、
雑木林の伐採、河川改修・埋め立て、寺社林・屋敷林の消滅等によって昆虫の生息環境が一挙に激減した。
昆虫界の栄枯盛衰は、分布図を作成し検討すると一目瞭然である。筆者はライフワークとして、
東京の昆虫相解明を研究テーマとし、現地調査のみならず明治以降の文献から東京の昆虫を渉猟し、そのデータ数は約28万となった。
膨大なデータの活用はさまざまあるが、昆虫の変遷をみる手法として資料の年次を追うデータベース化と
分布図を作成している。その事例としてチョウの分布図@、A、Bとトンボの分布図C、Dを示す。
分布図作成手法として、図@〜Bの分布図はその調査時点における生息地点をプロットで示し見やすいが、
経年変化を読むことができない。図C、Dは環境変化を評価するのに活用度が高く、
周辺地域の調査結果を複合することによって高度の内容を読み取り、広域的評価が可能となるであろう。
現在、環境省も環境指標生物の分布図を作成し、種別評価を実施している。
筆者は多種多様の東京の昆虫について、膨大な記録のデータベース化とあわせて分布図を作成し、
東京の昆虫についての過去・現在を明らかにし、その姿を浮き彫りにした環境評価をしたいと考え、試行錯誤しているところである。
東京のチョウの分布図 1982年の筆者著作より引用、黒丸は生息確認地。
左より、図@ウスバアゲハ 図Aアオスジアゲハ 図Bモンシロチョウ
世田谷区内のトンボの分布図 2003年の筆者著作より引用。
左より、図Cコシアキトンボ 図Dオニヤンマ
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