|
「夏のプレゼント」(夏季休業中課題)
私は高校で地理を担当しています。地理が必修ではないため、地理を履修しない高校生が増えていますが、勤務校では、まんべんなく各科目をという立場で、1年次に全員必修で地理A(2単位)を実施しています。
授業は講義形式で、教科書にほぼ沿った内容ですが、年間テーマを地図として、折りにふれて地図を扱うようにしています。勤務校で行ってきたことの紹介を通して、今の高校生の「地図力」について述べてみたいと思います。
メインが夏休みの課題です。地図に限定せず、たくさんのメニューの中から地図も選ぶというアラカルト方式をとっていた時期もありますが、現在は主題図の作成に限定しています。夏休み明けの文化祭で展示するため、用紙はA3ヨコと指定しています。
内容は「テーマを持ったオリジナルな地図。分野は問いません」ということで自由にしていますが、説明のプリントの中で、カルトグラムについて比較的詳しい説明をしているため、半数近くの生徒はカルトグラムを作成してきます。
色を付けたり表現方法を工夫しないと、労力のわりに報いられることがない(見栄えが良くない)のですが、カルトグラムには、生徒の知的好奇心をくすぐる何かがあるのでしょう。
作品にはその夏の状況がよく反映されています。オリンピックの年には、獲得メダル数による地図を作る生徒が何人も出ました。2007年は、猛暑をテーマにした作品がいくつもありました
(「県別平均気温と人口1人あたりの電力使用量の関係」「日本は本当に暑くなっているのか?」「避暑地を探せ!! .最高気温で階級区分図」など)。提出された作品は、デジカメで撮影し(200枚を超える撮影は一苦労です)、感想文と合わせて私のホームページ(※1)に掲載しています。
年度により形式が異なっていますが2002年度分よりご覧になれます。細かい指導は特にしませんが、教科書等のカット図として使えそうな完成度の高いものもあります。小著『知って楽しい地図の話』には2点掲載し、NHK 教育テレビ高校講座地理(「地図と図表から世界の課題を読む」)で放映されたものもあります。
感想文をいくつかご紹介しましょう。「一つの地図からいろんな方向に考えをめぐらすことができ、今度は自分の趣味に関係することなどを調べて見たいと思いました」「『夏のプレゼント』の名前どおり、宿題の中で一番楽しかったと思う。
そして以後、こうして地図を作製する方々には大いに楽しんでもらいたいと思う」「地図を作るのは大変だったが、自分が興味を持っていることを地図に表す、というのは面白いなと思った」「地図作製を通して日本の地形の複雑さを改めて思い知った。
それでもこの作業をやり通したことで少しは日本について知ることができたと思う。地図を描くことで得たものもデータをまとめることで得たものもどちらもこれからの学習に役立てられたらよいと思う」。これらを見る限り、日本の地図力の将来には十分期待が持てそうです。
なお、経過や作品については、雑誌『地理』2005年4月号に「高校生がつくる地図作品.課題レポート“地図をつくる”の実践と作品展示」として、かなりのページをとって紹介されています。また、2006年度の作品は、日本地図センターの「研究活動等支援」による助成を受け、冊子にまとめることができました。
マスコミなどの地図の批判
「毎月レポート」と称して、月1回程度、ミニレポートを課しています。テーマはその時々の状況に応じたものにしており、地図に限定していませんが、やはり地図関連のものが多くなっています。地形図の地図記号が公募された際には、高校生には応募資格がなかったのですが、そのことを断った上で書かせたことがありました。
老人ホームについては、予想通り、老を○で囲った「記号」を書く者が各クラス数名出ました。それでも、中には選ばれた作品と同じようなものを書く生徒もおり、検討委員だった私としては、高校生に資格がないのが残念ではありました。
授業では地図投影法について少し詳しく扱っているため、新聞などの世界地図が、分布に関するものをメルカトル図法で描いていたり、方位に関してずさんな記述があると、鋭く指摘する生徒がいます。
2005年2月8日付けの朝日新聞に掲載された、ヨットの世界一周新記録を示す地図については、喜望峰(付近)中心の正距方位図法で描いてあり、航路からは世界一周ということが読み取りにくい地図でした。それに対して、こういう時はやはり円筒図法を用いないとイメージがわかないとして、的確な対案(世界地図)を示した生徒がいました(※2)。授業担当者としては非常に心強く思ったものでした。
地図展などへの参加
上記のような毎月のレポートの一環として、地図展へ参加させて感想を提出させたことがあります。2005年に日大文理学部で開催された「地図と写真で見る日本の空襲展」がその例です。
勤務校には東京以外から通っている生徒も多く、会場に行くのにはそれなりの交通費がかかります。従って、保護者に案内を出し協力を求めました(これにより、生徒が経済的理由で行くのを渋る理由がなくなります)。レポートには滞在した時間も書かかせるようにしました。
それを見る限り予想以上に、というと生徒に失礼ですが、実によく見て、考えてくれたようです。会場で、『「地圖」が語る日本の歴史』を出版された菊地正浩さんに詳しく説明をしていただいた生徒は、次のように書いています。
「次に下のホールでは、大きな世界地図の上に自分が立っているという不思議な感覚に陥りながら、展示物に目を通して行きました。ジョー・オダネルの写真を見ていると原爆の状況、戦争の悲惨さ、当時の現実がそこには映されており、戦争は二度と繰り返してはいけないということを私に痛感させてくれました。
…人が傷つくようなことはだめ、ずっと平和であってほしい、そして平和であり続ける努力をするべきだという気持ちが自然にわいてくるような写真でした。最後には、ホールにずらりと並んだ地図の1枚1枚を持ち主である菊地正浩さんに解説していただき、理解を深めることができたと思います。
地図からドイツの国旗が一時期違うものになっていたことや、日本の太平洋戦争前の領土の広さなどを知り、驚きました。…『歴史は勝者によって作られるけれど、地図は真実を写す』と教えていただいたのが印象深く、刻み込まれています。目で見て、耳で聞いて、考えたことを通し、あの時代の現実を知ることができたように思います。貴重な体験をして良かったです!」(※3)。
地図は楽しい、地図は役に立つ、地図から社会が読める!教える側がこのことに確信を持って臨めば、女性は地図が読めないなどという俗説は打ち破ることができるし、生徒に地図への興味・関心を持たせ、「地図力」を高めることは間違いなくできる、ということ30数年の経験を通して、今強く感じています。
●ホームページ「山尾先生の筑附通信」 http://homepage3.nifty.com/tasiro/
※1 「地理」コーナー
※2 「地図」コーナー (20)「ヨット世界一周新記録 を示す地図」についての生徒の意見・感想
※3 「地理」コーナー 2005年 地図と写真で見る日本の空襲展感想
|